歩くは働く
「歩く」は沖縄語では「あっちゅん」という。
この話をすればどうしても沖縄のスーパースター具志堅用高さんの有名なインタビューに触れなくてはならない。アナウンサーが「ボクサーになる前は何になろうと思っていましたか?」と聞いて用高さんが「ウミアッチャーです」と答えた話である。
アナウンサーはその意味は?と聞く。すると用高さんは「海歩く人」と答えた。海アッチャーを本土の言葉に訳せば確かに「海歩く人」で間違いはない。ただ用高さんは海で生計を立てる人、漁師だと言いたかったのだ。テレビでは用高さんの不思議でユニークな言葉づかいのように報じられた。
しかしハルアッチャーといえば畑(ハル)で働く人、つまり農業従事者のこと。つまり沖縄では「あっちゅん」は「歩く」と「働く」の意味もあるわけだ。
アッチャメー小
訳せば「歩き舞い」となるこの曲は、昔のカチャーシーを表しているのだという。
サー アッチャメー小(ぐゎー)くまや酒肴まんでぃヒャ 我ぬんくま居(をぅ)とーてぃ 飲だい食たい アッチャメー小 ヤートゥナーヒャー ワントゥナーウリ
(歌意)ここは酒の肴がたくさんある 私もここで飲んだり食べたり (囃子は略)
昔は野外で飲み食べしながら、唄い踊る毛遊び(モーアシビ)が盛んだった。早弾きの三線と共にこのウタで人々は踊った。
今は宴席が盛り上がると「カチャーシー」と呼ばれる踊りを楽しむのがお決まりのようになっているが、昔はそうは呼ばなかったし、踊りも少し違っていたという。「昔はもっと腰を落として歩き舞いをしていた」と。今はどちらかと言うと「手踊り」重視のようになっているように見える。時代と共に変わってきたわけだ。
あっちゅみ?
沖縄の年配の男性は、年下の人に出会って挨拶として「あっちゅみ」と聞くことがある。訳せば「歩いてるか」。私も最近なるだけウォーキングを頑張ろうと思っているが「ウォーキングやってるか?」というのとはちょっと違う。
「元気か?」の意味だ。用高さんの話でも出てきたように「歩く」は「働く」の意味もあるからだろうか。
他にも、時計が動いていれば「時計あっちゅん」、タクシーも走っていれば「タクシーあっちゅん」などの使い方があるが、もう若い人は使わないだろう。
今は座ったまま行き戻り?
昔ぬ那覇ぬ行き戻いん 歩っちる我ったーや行ちゃびたしが 今や居ちょーてぃ行ち戻い 昔ぬ面影むるねーらん
(歌意)昔の那覇では行ったり来たりするのに歩いていましたが、今では座ったまま行ったり来たりする。昔の面影は全くない。
島唄の神様と言われた嘉手苅林昌さんが唄う「時代の流れ」。時代に翻弄される沖縄の日常を皮肉とユーモアたっぷりに歌い上げている。那覇のバス停に座って林昌さんが作られたウタだという。上のウタはクイズのようでもある。昔は歩いて今は「座って行ったり来たりする」とある。座って移動できるか?答えは、バスや自動車に乗車して移動することなのだ。
歩き唄う
この林昌さんは若い頃馬車を引いて荷物を運ぶ仕事をしていた。歩きながら唄ったという。私が今帰仁ミャークニーを習った平良正男さんも同じことを言われていた。昔はモーアシビに向かう道すがら唄っていたのだという。そこでもウタが生まれていたらしい。
海アッチャーや畑アッチャーも仕事をしながら唄い喉を鍛えたらしい。そして新しいウタも生まれてきたのだろう。そういえばエイサーもシヌグやクエーナなどの神事や芸能も「歩く」ことと切り離せない。
今年も本拙コラムをどうぞよろしくお願いします。これからも島唄を唄い、旅を続けて歩きつづけていきます。皆様にとっても素晴らしい一年となりますように。
モーアシビの様子。
筆者作画
宮崎県出身。沖縄民謡を教えて20年。
2005年にブログ「たるーの島唄まじめな研究」を開設し、沖縄民謡に込められた沖縄の人々の心を伝えたいと正確な発音、語句の意味にこだわり、これまでに500曲近い沖縄民謡を解説し続けてきた。
多くの出版希望の声に応え、待望の書籍化。
監修に嘉手苅林次氏を迎え、200曲以上の歌詞と解説を収録。
おまけページとして、「島唄人物名鑑」「島唄ふるさとMAP」「島唄年表」「島唄語句辞典」も収録。
B5サイズ 424ページ
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たるー(関洋)
宮崎県生まれ。広島在住。
琉球民謡協会教師。
ネットでお馴染みの「たるーの島唄まじめな研究」の著者。
広島で三線教室や「Y O U果報バンド」を主宰。
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